書面は短い方が良い
多くの弁護士は、短い訴状・準備書面の方が優れていると思っています。短い書面には、法的に重要なことが簡潔にまとめられており、個々の記載に証拠が引用されていて、結論までの筋道が明確に感じるからです。また、争点が明確になり、その部分に立証活動を集中することで、判決までの期間が短縮されたり、裁判所の判断がぶれないようにコントロールすることもできます。ある弁護士は、ほとんどの書面は10頁に収まると言っており、私も、一部の例外的に複雑な事件を除けば、同意見です。
しかし、依頼者の方からすれば、書かなければ伝わらないと考えますし、証拠がないと言われても、自分は真実を知っている以上、書かないということに抵抗を感じるのは当然です。また、法的に意味がないことでも、とにかく書いておいて裁判官に判断してもらえばよいと考える人もいます。
この「弁護士は無意味だと思うが、依頼者は書いてほしい部分」について、どう対応するかは、弁護士によって、かなり差が出ると思います。
書きたくない理由
弁護士が、意味のないことを書きたくない理由は、そのように教育されているからという部分も大きいと思います。弁護士は、司法修習を経て、弁護士になりますが、法的に無意味なことを書くようには教わりません。
実際、法的に意味のある事実と意味のない事実を切り分ける能力がないと、訴訟の見通しが立てられず、勝訴・敗訴の予測を外しやすくなりますので、依頼者からしても、弁護士の重要な資質です。ところが、いざ訴訟になると、依頼者が書いてほしいと言っているのに、弁護士が「法的に意味がない」と拒否する事態も発生するのです。「書かなくても勝てる」と明言するなら、依頼者も納得すると思いますが、弁護士は有利な結果になることを請け合い、保証してはならないとされていますので、明言することはできません。これでは、納得するのも難しいでしょう。
一般的には、弁護士が、法的に意味のないことを書きたくない理由として、以下のような点が挙げられます。
- 訴訟が遅延するから
-
法的に意味のないことであっても、書いてしまうと、相手方は、反論したいと考えます。当然、反論のための期間を設けることになり、それだけ訴訟が遅延する可能性があります。
- 和解に悪影響だから
-
法的に意味のあることは、相手の心情を害したとしても、書く必要があります。ところが、法的に意味のないことは、相手の心情を害するだけで、将来の和解に悪影響を及ぼす可能性がありますから、できれば書きたくないのです。
多くの依頼者にとって、訴訟は、初めての経験で、裁判所に判決を書いてもらおうという気持ちで臨んでいますが、実際は、途中で、裁判所から和解を勧められ、和解した方が良いという場合も珍しくありません。弁護士は、経験上、そのことを知っているため、常に、和解可能性が頭の片隅にあり、和解に悪影響を及ぼす可能性のある記載は避けたいのです。
- 弁護士倫理上の問題が生じる可能性があるから
-
民事訴訟は、相手にとって不利なことを書くので、その性質上、名誉毀損やプライバシー侵害的な記載が避けられません。法的に必要なことであれば、訴訟上の正当な行為として、違法とされることはありません。しかし、法的に無意味なのに、相手方の名誉を毀損したり、プライバシーを侵害したりすると、違法とされることがあります。準備書面に、不必要な名誉毀損、プライバシー侵害的な記載をしたことで、懲戒された弁護士も存在します。
弁護士の対応に不満を感じたら
書いてほしいことを弁護士が書いてくれないという不満は、実は、よく聞きます。弁護士の対応に不満を感じたら、以下の対応を取ってみてください。
- 書かない理由を訊く
-
まずは、書かない理由を訊いてみてください。納得のいく回答が得られるかもしれません。
- 無意味でも良いと明言してみる
-
書くことによって、法的に意味のある主張だと、依頼者に誤解されるのが不安なのかもしれません。「無意味でも良いので書いてくれ」と言ってみるのも、一つの方法です。
- 陳述書に書いてもらう
-
準備書面には書けなくても、陳述書なら、書くことに躊躇しない場合があります。陳述書は、当事者の認識を、背景事情も含めて書くものだからです。陳述書は、証拠の一種で、いわば、「本人の言っていること」を書面化したものです。