貸金返還請求、慰謝料請求など、金銭を請求する事件で、個人の方から、内容証明だけ送ってほしいというご相談を受けることがあります。内容によっては、ご依頼を受けることがないわけではありませんが、基本的には、お断りさせていただいているのが実情です。おそらく、かなり多くの法律事務所でも、同様の取扱いが多いのではないかと思います。大きな理由は、以下の2点です。
- 内容証明だけ送って解決することはほとんどない
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弁護士から内容証明が届けば、相手は支払うのではないかと考える方がいますが、全くないわけではないものの、経験上、ほとんどありません。特に、慰謝料など、法律や契約で金額が定まっていない請求について、内容証明を送るだけで、請求額を支払ってくるのは、かなりレアケースです。また、契約や判決が既に存在する場合、支払われないのは、支払意思がないからですので、訴訟や強制執行を検討すべき段階であり、内容証明を送っても仕方がないと言えます。
つまり、依頼者の期待と弁護士の予測が大きくズレていて、弁護士側から見て、期待通りに行かないことが高確率で予測されるということです。
では、「依頼者が納得していれば良いのでは?」と思うでしょう。しかし、弁護士は専門家で、依頼者は素人なので、「本当に理解して納得しているのか?」という点について、弁護士側が確認しなければなりません。依頼者が「それで良いです」と言ったからといって、鵜呑みにするわけにはいかないわけです。
- 相手の誤解を招く
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弁護士名を書いて内容証明を送ると、ほとんどの相手は、弁護士が代理人だと考えるでしょう。一応、「文書作成代理」など、交渉を担当しないことを明記して送付するのですが、法的な紛争に慣れていない相手は、その意味を理解できないことがあります。だからといって、弁護士が交渉を担当しないこと(文書を作成しただけであること)を文面で強調しすぎると、「弁護士から内容証明が来た」と相手に思ってもらえないので、依頼者の希望に沿わないことがあります。
弁護士から内容証明を送ることに特別な効果があるように思っている方もいますが、内容証明は、基本的には、ただの手紙です。相手が心理的圧力を感じることはありますが、だからといって、請求通りにお金を支払うことは、ほとんどありません。高額な請求であればなおさらです。相手にお金を払わせるため、心理的圧力をかけたいという考えは分かりますが、心理的圧力はかかっても、それによって、お金を支払うところまで決断することは、ほぼないのです。
