令和6年2月15日より、改正刑事訴訟法が施行され、性犯罪等については、勾留や起訴にあたり、被疑者・被告人に対して、被害者の個人特定事項を知らせないことができるようになりました。これにより、性犯罪の被害者等は、氏名、住所等を知られることなく、犯人を処罰してもらうことが可能になりました。
勾留時には、これまで、被害者の氏名や住所(犯行場所の場合)が記載された勾留状が示され、請求すれば、謄本が交付されていましたが、これからは、個人特定事項の記載がない「勾留状抄本か勾留状に代わるもの」が示され、交付されることになります。
また、起訴時には、弁護人には、被害者の個人特定事項が記載された起訴状謄本が送達されますが、被告人には、個人特定事項を省略した「起訴状抄本か起訴状謄本に代わるもの」のみが送達されることになります。そして、弁護人に知らされた個人特定事項は、弁護人から被告人に知らせることが禁止されます。
ただし、いったん、個人特定事項が秘匿された場合であっても、公判の終了まで、その状態がずっと保証されるわけではありません。勾留についても、起訴についても、「被疑者(被告人)の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき」(207条の3第1項第2号、271条の5第1項第2号)には、被害者の個人特定事項が被疑者・被告人に通知される決定がなされます。
民事でもそうですが、氏名や住所、勤務先、親族関係など、個人情報を相手に秘匿したいという要望は、切実であり、法的権利の実現のために、それが必要な場合もあります。しかし、相手に対して何かを秘匿するという行為は、「知られたくない」という弱点の自白に等しいとも言えます。
これまで、個人情報を知られることを恐れて、被害届の提出すら断念していた例もあることから、被害者保護として、一歩前進ではありますが、結局、氏名や住所が被疑者・被告人に知られないことが完全に担保されているわけではないため、その点には注意が必要です。個人特定事項が通知されるケースが、「極めて少ない」or「ほぼない」という運用が、どこまで定着するかが注目されます。
なお、そうすると、加害者視点では、黙秘の価値がかなり上がると思います。起訴後にどんな供述をするか分からなければ、個人特定事項の通知決定がなされる可能性がどの程度かも予測できませんので、「絶対に知られたくない」という被害者の意向があれば、不起訴ということも十分あり得るのではないでしょうか。捜査段階で供述してしまうと、「被疑者(被告人)の弁解内容に鑑みれば、氏名や住所を知らなくても、防御に欠けるところはない」という判断を予測しやすくなってしまうからです。
