違法収集証拠は排除されるか?
違法に収集した証拠は、民事訴訟で証拠として認められるでしょうか。
一般に、違法に収集された証拠を認めることは、国民が民事訴訟に期待する公正さを損なうことになるし、裁判所が違法行為を是認するという誤解を与えるので、違法の程度が重大な場合には、排除されると言われています。
一つの基準として、刑事上罰すべき行為(犯罪)によって収集された証拠は原則排除し、犯罪でない場合は、違法の重大性や証拠価値を考慮すべきと言われています。裁判例では、著しく反社会的な手段という評価基準が用いられることが多いです。
刑事裁判では、違法収集証拠が排除されて無罪になったというニュースを見ることがあります。たとえば、覚せい剤などの薬物事件で、警察官が、無令状で所持品検査をしたり、住居に立ち入ったり、身体を拘束したりして、証拠を収集したことは違法であるとして、その証拠が排除され、薬物所持や使用は事実であるにも関わらず、無罪判決が出ることがあります。
犯罪は事実であるのに無罪になることに違和感を持つ人もいるかもしれませんが、警察には、裁判所の令状によって、所持品検査も、住居への立ち入りも、身体の拘束も認められているので、手順を踏めば、適法に証拠を得ることができます。それにもかかわらず、違法に収集した証拠を認めてしまうと、警察は、同じことを繰り返すでしょう。犯罪の証拠を収集することは、警察にとって日常業務ですから、違法なやり方を放置しておくわけにはいきません。違法行為は違法行為として処罰し、証拠は証拠として評価するという方法論もありますが、収集した証拠を無価値にしてしまうことが、一番効果的であると考えられています。
これに対して、民事訴訟は私的な紛争であって、当事者にとって、証拠の収集は、日常業務というわけではなく、そもそも、国家から捜査権が与えられているわけではないので、証拠収集手段も限られています。つまり、違法な証拠収集を抑止するという目的では、排除までする必要がないと言えます。
探偵の調査報告書
探偵(興信所)業には、探偵業法(探偵業の業務の適正化に関する法律)という法律があり、「この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。」(同法2条1項)と定義規定が置かれています。したがって、通常の聞き込み、尾行、張込みなどは、適法業務として行われうることを当然の前提としており、それ自体、違法ではありません。
ただし、「探偵業務を行うに当たっては、この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない。」(同法6条)と定められており、探偵に何か特殊な権限が与えられているわけではありません。
基本的に、公道における写真撮影、公道から見えるマンション共用部分やホテルロビーなどの写真撮影などは、違法ではないと思われます。しかし、たとえ公道からの写真撮影であっても、GPSで居場所を追跡して撮影したり、特定の場所に監視カメラを設置し、不特定多数を常時撮影して、後から確認するなどの方法を取ると、違法とされる可能性があります。
また、公道から見えないマンション共用部分やホテルロビーでも、不特定多数が出入りすることが前提とされている場所であれば、違法とされない可能性があります。探偵業法によっても、建造物侵入などの犯罪行為が認められているわけではありませんが、調査目的自体が正当であれば、不特定多数が出入りする場所での撮影は違法とされない可能性が高いと思われます。
また,探偵社による調査は,Aを尾行し,旧被告宅があるマンションの共用部分に立ち入り,旧被告宅の玄関を外側から写真撮影するなどの方法で行われている。そうすると,原告が調査を依頼したことには相応の理由があったということができるし(この点に関し,被告は,原告が離婚に有利な証拠を獲得するために調査を依頼したと主張するが,前記認定のとおり,調査依頼の時点で原告が離婚を決意していたとはいえないから,原告に不当な目的があったと認めることはできない。),調査の方法も格別不相当なものとは認められない。-東京地裁平成19年5月10日判決-判例秘書L06232056
GPSの設置行為
違法収集証拠の排除に関するものではありませんが、探偵が、不貞(不倫)調査のため、依頼者の夫と不倫相手の自動車にGPSを設置して、位置情報を調査した手法について、不法行為に基づき、探偵に対する損害賠償請求が認められた裁判例があります(旭川地方裁判所令和6年3月22日判決,同控訴審の札幌高等裁判所令和7年1月31日判決)。
特徴としては、①GPSを設置したのが依頼者の夫の車両であり、夫婦共有財産であったとしても、違法と評価されていること、②それにより、ホテルに行ったことを突き止めて、ホテル敷地内で夫や不倫相手を写真撮影したことも違法と評価していることです。
①については、「依頼者の夫の自動車は、夫婦共有財産だから、妻がGPS機器を設置することは違法ではなく、探偵は、妻から依頼されてGPSを設置し、位置情報及び移動履歴を取得したから、夫のプライバシーは侵害しない」(要約)といった反論がありましたが、たとえ夫婦共有財産であろうと、妻が夫の位置情報や移動履歴という夫固有のプライバシーを侵害することを正当化するものではないとして、認められませんでした。
②については、「ホテルの敷地内は公道上からも視認することができる場所であり、不特定多数が出入りすることのできる一般に開かれた場所だったから、その場所における写真撮影は、プライバシーの侵害とはならない」(要約)という反論がありましたが、「GPSにより、容易に位置を把握でき、これにより、本件ホテルの敷地内において外貌等を撮影するに至っていることからすれば、GPSの設置行為及び位置情報等の取得行為と一連である本件ホテル敷地内における撮影行為は、プライバシーを侵害する」(要約)と判断されました。
この裁判例によれば、GPS設置は、自分の車両であろうと、探偵を介さず、自分で設置しても、違法と評価される可能性が高く、GPS設置によって、はじめて不倫の現場を突き止めることができた場合、その写真撮影も違法とされる可能性が高いと言えます。
もちろん、GPS設置行為が違法だからといって、不貞行為に基づく慰謝料請求事件において、それが違法収集証拠として、排除までされるとは限りませんが、そのリスクはあると言わざるを得ないでしょう。
無断録音
パワハラ発言や不貞の自白を記録するため、会話の一方当事者が無断で録音することが行われています。ほとんど証拠能力が肯定されています。(※電話を全て自動録音できるスマートフォンもあります。)
企業において、企業秘密漏洩の防止や、自由な会話を阻害しないよう、会社内の会話の録音を禁止することは可能ですし、明示的に禁止されていなくても、従業員の不法行為・債務不履行に該当することはあります。しかし、秘密録音が、就業規則・業務命令違反・不法行為等に該当したとしても、それと証拠能力が排除されるかは別問題であり、「著しく反社会的な手段ではないから排除しない」という判断をした裁判例があります(職員の歯科医師が控室を秘密裡に録音して証拠提出した事例:東京高等裁判所令和5年10月25日判決)。
他方で、職場の休憩室において,約4か月間に20回程度,1回当たり3時間程度,気付かれない位置に録音機を設置して録音した会話の録音が違法収集証拠として排除された事例もあります(大阪地裁令和5年12月7日:判例タイムズ1527号214頁)。以下引用。
前記認定事実(8)によれば、甲第6号証は、原告X1が本件無断録音によって取得したものである。本件無断録音は、原告X1が自身に対する悪口を言っている者を特定して証拠を得るという、専ら自己の個人的利益を実現するにすぎない目的の下、令和3年3月頃から同年7月頃までの4か月間で合計20回程度、1回当たり3時間程度、録音機を他の人に気付かれないように本件休憩室内に設置して、会話の有無、会話者、会話内容のいかんにかかわらずこれを録音したというものであり、長期間にわたって不特定多数の者の会話を対象として包括的網羅的に証拠を収集するという点で、対面者との特定の会話を承諾なく録音するにとどまる場合とは全く異質の行為というほかない。そして、本件無断録音が行われた場所はいずれも本件休憩室であり、前記認定事実(1)のとおり、本件休憩室には鍵が掛かっておらず、複数人が出入りする可能性があるとしても、公共の場所とは異なり、基本的に本件会社の関係者しか出入りすることはない。また、本件休憩室内には、畳敷きの部分、ロッカー室、台所、洗濯室及びシャワー室があるほか、長テーブル及び椅子も置かれており、これらの設備を利用して本件会社の従業員が長距離のトラックによる運送業務のない間に休憩・休息や仮眠をとったり、気分転換のために雑談をしたり、業務に必要な話合いや会議をしたりできるようになっている。このような本件休憩室の特徴に照らすと、本件休憩室は、不特定多数の者が自由に出入りできる公共の場所とは異なり、その利用者が、その場に居合わせた者を確認した上で、私事にわたる事柄に限らず、それ以外の事項についてもその場限りのものとして発言することができ、あるいは、自由に個人的な行動に及ぶことができるという意味において、一定のプライバシー権が認められる場所ということができる。そうであるにもかかわらず、本件無断録音によって、本件休憩室を利用する従業員の休憩中の雑談や生活音、話合いの内容等が、本人が知らない間に長期間にわたって包括的網羅的に録音されていたのであるから、本件休憩室の利用者のプライバシー権は、本件無断録音により著しく侵害されたといわざるを得ず、その侵害の程度は対面者との特定の会話を承諾なく録音する場合とは比べることができないくらい深刻なものであったというべきである。
その上、本件無断録音は、企業秩序の観点から本件会社が許容するとは考え難く、建造物侵入罪に該当して刑事罰の対象となり得る行為であり、社会的に到底許容されない違法性が著しく強い行為というべきである。
この点、甲第6号証は、会話①及び②そのものであり、原告X1の面前でこのような会話をすることは考え難いことから、会話①及び②の存在及び内容を立証する上で重要な証拠であることは否定できない。しかし、個人の権利侵害の立証のためだけに、上記のような、社会的に到底許容されない態様で不特定多数の者のプライバシー権を著しく侵害する行為により収集された証拠が証拠能力を有するとなると、個人の権利救済のための立証という名目があれば違法行為によって目的をはるかに上回る権利侵害が際限なく許容されることとなり、これが妥当でないことは、民事裁判制度の趣旨・原則に照らせば、明白である。
他人間の会話の盗聴、盗聴機器常設による録音、企業・自治体における正式な会議の録音などは、違法収集証拠として排除される可能性があります。
日記・スマホ・所持品の無断撮影
他人の日記や所持品については、よくあるのが、配偶者や交際相手の物を無断撮影する行為です。住居侵入や窃盗がない限り、ほぼ違法収集証拠として排除されることはありません。
ただし、スマホに関しては、IDやパスワードを入力して、インターネットを介して、サーバーにログインしなければ、見ることができない情報であれば、不正アクセス禁止法違反として、違法収集証拠となり、排除される可能性があります。もっとも、スマホ本体に保存されている情報であれば、無断撮影しても、証拠排除される可能性は、ほぼありません。
社外持ち出し
残業代請求事件などで、従業員が、社内の資料を無断で持ち出し、証拠提出することがあります。こういった証拠は違法収集証拠として排除されないのでしょうか。
原告らは、本件タワーで勤務した際に、上記業務日誌をプリントアウトして持ち出したものと認めることができ、原告らの上記行為は、E(※会社のこと)に対する不法行為に当たり得るほか、原告らと被告との間の雇用契約上の債務不履行に当たると認めることができる。
しかし、当事者が証拠を収集する際に違法行為があったとしても、直ちに当該証拠の証拠能力は否定されない。そして、本件業務日誌は、原告らの具体的な勤務状況を明らかにする書証であって、本件において極めて重要な証拠であること、後記(3)ウのとおり、原告らは、被告の指揮命令の下でマニュアル代わりに使用していたものであること、本件業務日誌が開示されることにより、個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするおそれがあるとは直ちに認めることができないことからすれば、本件業務日誌の証拠能力は否定されないというべきである。-東京地方裁判所令和5年4月14日(労働判例1318号55頁),東京高裁令和6年4月24日(労働判例1318号45頁)も是認-
残業代請求事件では、労働時間を立証するのに、社内の記録を用いざるを得ない場合が多く、実際に、持ち出された記録が使用されることは珍しくありません。立証上の必要性があれば、ほとんど証拠排除されていないと思われます。
残業代は、慰謝料などと異なり、給与ですから、労働者の生活の原資であり、法律が企業に残業代の支払いを求めているのは、働かせすぎ防止のためで、場合によっては、労働者の命にかかわります。しかも、企業には労働時間の管理義務があるので、自ら真実の労働時間を証明できないのに、労働者の証拠を違法収集証拠として排除せよという主張は通り難いのではないでしょうか。
まとめ
民事訴訟では、どのような証拠であっても、違法収集証拠としては、証拠排除され難く、証拠排除された事例自体が限られています。元裁判官も、「大変率直にいえば、日本の判例には、証明力の高い証拠であれば違法収集証拠でも容認するという傾向が、いささか強すぎると思う」(瀬木比呂志 著・民事訴訟法・日本評論社・2022年12月・333頁)と述べています。
しかし、裁判所は、著しく反社会的な手段で収集された証拠、刑事上罰すべき行為によって収集された証拠については排除するという姿勢を示しており、どのような証拠でも絶対に排除されないというわけではありません。
