従業員の債務整理によるコーポレートカードへの影響
会社が、経費精算のため、いわゆるコーポレートカードを従業員に持たせている場合があります。会社決済型と個人決済型があり、債務整理による影響も異なります。
会社決済型では、従業員が決済した利用代金は、直接、法人の口座から引き落とされるため、通常、従業員の個人的な債務整理による影響はありません。従業員は、債務者ではないからです。
個人決済型は、コーポレートカードの利用額をいったん従業員個人が支払い、経費分のみ、会社に申請をして、払い戻しを受ける方式です。この場合、従業員自身が債務者となるため、債務整理の影響を受けます。自己破産や個人再生なら、返済を停止する必要がありますし、任意整理であっても、信用情報の影響により、カード利用が停止になる可能性があります。
会社カードが利用停止になった特殊事例
従業員が、コーポレートカードではない完全に個人のカードを債務整理したところ、そのカード会社が、会社名義のクレジットカードを利用停止にした事例があります。
通常、会社と従業員は区別されており、従業員が債務整理をしても、会社名義のカードには一切影響はありません。従業員が債務整理をしたからといって、会社名義のカード決済が止まるのでは、従業員を雇用することなどできないでしょう。
では、なぜ、会社のカードが止まってしまったのでしょうか。
カード会社は、利用停止の理由を教えてはくれませんでしたが、おそらく、原因と思われるのは、個人名義のクレジットカードを使用して、会社で多額の決済をしていたからです。つまり、自分の勤務先で商品を購入したことにして、会社に売上を上げていたのです。
会社は、そのことに気づくことができませんでした。なぜなら、商品の在庫と売上に一切の齟齬がなかったからです。
従業員は、実際に商品を売り、顧客から現金を受け取って、それを自分の財布に入れていました。その代わり、自分名義のクレジットカードで、同額の決済をしていたのです。多重債務に陥っていた従業員は、顧客が支払った現金を当面の借金返済に充てていました。会社には、クレジットカード会社から立て替え払いがなされるため、(手数料の問題はありますが)損害として認識できなかったというわけです。
しかし、従業員が、そのカードを債務整理して、支払を停止した場合、カード会社は、その時点の債務額相当の損失を被ります。そして、実際には存在しない架空の取引(従業員は商品を買っていない)ですから、架空取引によって、会社に売上を上げたことになります。
その会社は、従業員数の少ない小規模な会社だったので、従業員名義とはいえ、架空取引で会社に売上を計上したことで、会社の信用に関わると判断されたのだと推測されます(たとえば、大手デパートや大手スーパー、従業員の多数いる大企業で同じことが発生したとしても、同じ結果にはならなかったと思います。)。
弁護士は、法律相談の際、換金行為(新幹線チケット、ゲーム機、携帯端末などをクレジットカードで買って、すぐに売却して、現金化すること。もしくは、換金業者を利用し、実際には購入していない商品を買ったことにしたり、廉価商品で高額な決済をして、業者から現金をバックしてもらうこと。)の有無を確認していましたが、従業員は、勤務先での決済を伝えなかったようです。なぜなら、実際に商品を売っており、顧客が支払ったのと同額の決済をしただけであり、会社に一切の損害は発生していないので、それが問題になるという意識が全くなかったからです。また、会社に損害が発生していないとしても、顧客が支払った現金を一旦懐に入れているため、犯罪(横領)という意識があり、弁護士に伝えづらかった可能性もあります。
通常は、従業員個人の債務整理が、会社の信用状態に影響することはありません。しかし、クレジットカードの約款では、通常、カード利用者の信用状態が悪化したとカード会社が判断した場合、カード利用を停止できることになっており、あくまで、カード会社側の判断次第です。
本件は、かなり特殊なケースではありますが、従業員の債務整理が、勤務先会社の信用状態に影響する場合が絶対にないわけではないということです。特に、福利厚生として、従業員に商品を売ったり、もしくは、従業員のクレジットカード決済で、いわゆる自爆営業のようなことをさせている会社は、気をつけた方が良いでしょう。
※なお、この事案では、後日、会社のカードは利用が再開できました。
