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婚姻関係破綻後の不貞行為でも責任を負う場合

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最高裁判例

甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。

ー最判平成8年3月26日民集50巻4号993頁ー

従来、婚姻破綻後の不貞行為は、たとえ離婚前のものであったとしても、特段の事情がない限り、不法行為にならないとされてきました。婚姻破綻は、簡単に認められるものではなく、別居していたり、離婚調停が係属して、双方が離婚を前提に協議しているという状況でなければ、認められないことが多いと言えます。

これに対して、婚姻破綻自体は認められたとしても、その後の不貞行為にも責任を負うという裁判例が出ました。

東京地裁令和7年1月30日判決

婚姻関係の破綻の原因となった上記性交類似行為を行った被告が、婚姻関係の破綻の直後に引き続いて行った性行為について、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益の消滅を主張することは信義に反して許されず、婚姻関係破綻後の行為についても、被告が不法行為責任を負うべき特段の事情があるというべきである。したがって、被告は、上記性交類似行為及び性行為について不法行為責任を負う。ー東京地裁令和7年1月30日判決・判例時報No.2625ー

この裁判例では、そもそも、婚姻破綻前の性交類似行為(キス、互いの性器に触れる、口淫する)が認定されているので、破綻後の性行為について不法行為責任を認めなくても、請求自体は認容されたと思われます。しかし、破綻後の性行為についても責任を認めることで、賠償額に影響した可能性があります。そのため、実務上は、性交類似行為で慰謝料請求できる場合であっても、破綻後の性行為まで立証できるなら、請求原因に追加しておく必要があるということになります。

興味があるのは、性交類似行為以外に、どこまで信義則違反が認められるかという点です。

性交類似行為(キス、性器に触れる、口淫するなど)は、性交渉(性器の挿入)に至っていなくても、価値的には、ほとんど不貞行為に等しいとも言えます。上記裁判例でも、破綻後の性行為が立証できなくても、性交類似行為だけで、慰謝料請求自体は認められたでしょう。

しかし、実際は、性行為や性交類行為の立証はできないが、不穏当なLINEのやり取りや、探偵の調査報告書で、親密な関係が疑われ、破綻に至るケースもあります。そして、破綻後、配偶者が安心してしまい、証拠を掴まれ、破綻後の性行為の立証ができる場合があります。

このような場合、「破綻後の性行為の証拠から、親密な関係性だった破綻前も、当然、性行為があったと推認すべき」という主張もあり得ますが、「既婚者との不穏当に親密な関係で、破綻原因を作った者は、その後の性行為について、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益の消滅を主張することは信義に反して許されない」という主張もあり得るということになるでしょう。

いずれにせよ、婚姻破綻後だからといって、配偶者の性行為の証拠を収集することが無駄とは言い切れないということになります。

賠償額

余談ですが、上記裁判例で認められた賠償額は、以下の事情を指摘した上で、150万円でした。

  • 7年間にわたり平穏な婚姻生活を送っていたこと
  • 2か月間性交類似行為に及び、その後、1か月間高い頻度で性行為に及んだこと
  • 一度、配偶者ともう会わない約束をしたのに、再度性交類似行為に及んだこと
  • 2歳の長女がいること
  • 離婚するに至ったこと

他方、通常より減額すべき事情は何ら指摘されていません。特に減額事由がなく、結婚生活が7年に及び、2歳の子どもがいて、一度した約束を破ってまで不倫し、離婚に至ったとしても、150万円程度が、現在の相場ということでしょうか。ただ、現場の体感としては、担当裁判官次第で、200万円くらいまでは、上振れする可能性があると考えています。逆に、もともと不貞と関係なく夫婦関係が悪かったなどの減額事由がない場合、150万円を下回ることは少ないのではないでしょうか。

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