夫の様子がおかしいと思い、探偵に調査を依頼したところ、職場の同僚女性の家に宿泊していました。複数の弁護士に相談したところ、不貞を証明できるという意見と、宿泊したというだけでは厳しいという意見がありました。どちらが正しいのでしょうか?
これについては、個別の事情により、また、裁判官によっても考え方が異なると思われます。
大人の男女が、単に夕食を共にするというにとどまらず、更に、午後10時過ぎ頃から翌日午前3時30分頃までという深夜の時間帯に、一方の居宅において二人きりで過ごすということは、現在の我が国における健全な社会常識に照らすと、相当に濃密なプライベート領域の共有というべき事態であって、節度のある知人間又はビジネス上の付き合いの一環として説明することが通常困難な事態といえるから、特段の事情が無い限り、同事実は、両者が家族、恋人又はこれと同様の関係にあることを推認させるものというべきである。(東京地裁平成30年2月15日判決・2018WLJPCA02158010)
このような裁判例があることを踏まえれば、異性の自宅に宿泊していれば、訴訟を提起してみる価値はあると言えます。裁判官によっては、勝てるかもしれません。
しかし、当事務所の取り扱い事件では、異性の自宅への宿泊が立証されたにもかかわらず、裁判官から、単に宿泊したというだけでは、不貞があったと認定はできないという心証が開示され、低額で和解した事例が複数あります(当事務所が、原告側もありますし、被告側もあります)。
裁判例としても、次のような事例があります。
YとAは、遅くとも平成28年4月頃にはYの自宅の合鍵をAが預かるようになり、その後しばしばAがYの自宅に出入りするなどといった関係にあったことが認められ、少なくとも本件各行為の機関注、同人らが相当程度親密な関係にあったことは明らかといえる。
もっとも、自宅は日常生活の塲であり、専ら性行為を行うことを目的とした場所ではないのであるから、AがYの自宅を訪れて一定時間滞在したことのみをもって直ちに同人らが性行為に及んだとの事実が推認されるものではない。(東京地判令和4年1月18日公刊物未搭載・【「不貞行為裁判例集」中里和伸著、268頁、第一法規2025年2月10日初版】より)
ただし、本裁判例では、「宿泊」までは立証されていなかったようです。しかし、合鍵を預かり、「相当親密な関係」というところまで立証できていながら、それでも、なお、不貞の立証には足りないというわけです。その理由として、「専ら性行為を行うことを目的とした場所ではない」と指摘するのですから、仮に、「宿泊」していても、同様の結論だった可能性があります。
もともと、不貞行為(=性交渉)は、密室で行われるものですから、立証のハードルが高い不法行為です。ラブホテルへ入った事実、性行為の動画・写真、性行為があったことを直接的に示すLINEのやり取り、当事者の自白などがない限り、そう簡単に立証できないのが現実と言って良いでしょう。
少なくとも、単に「宿泊」したというだけではなく、もう一つ、ダメ押しになるような事実が欲しいところです。たとえば、路上で、手を繋ぐ、キスをする、ハグをするなど、身体接触を証明することができた上での「宿泊」であれば、(絶対ではありませんが)不貞行為が認められる可能性はあると思います。
また、他人の家に宿泊する合理的理由がないことも重要です。たとえば、妻が夫を追い出して、自動車で寝泊まりすることが度々あったということが立証されてしまうと、不貞関係などなくても、不憫に思って泊めてあげるということも、十分に考えられるということになるでしょう。
更に、家の間取りや広さ、同居人の有無も重要になってきます。たとえば、性交渉の意味を理解できる中学生~高校生の子どもと同居するシングルマザーは、1DK程度の広さの家で、男性と性交渉をするでしょうか?確かに、世の中には、そういう母親もいるかもしれませんが、少なくとも、一般的とは言えず、「不貞はなかったのでは?」という疑念を持たれるでしょう。
以上のように、異性の家に宿泊という事実は、当事者からすれば、かなり疑わしい事態に違いはなく、裁判所も、「親密であったことはうかがわれる」という程度の評価はしてくれますが、不貞行為まで立証できるかは、少々、心もとないところがあると言えます。ただし、請求を認容した裁判例もありますし、異性の家に宿泊していれば、不貞を疑われるのも仕方がなく、訴訟を提起されること自体も、やむを得ないと言って良いでしょう。
では、逆に、手をつなぐ、キスをするなどの親密な関係だけなら、どうでしょうか?最近、東京地裁で、次のような判決があったことが報じられました。
判決は、妻と男性について「親密な関係にあったことがうかがわれる」としつつ、バーで数時間を過ごしても肉体関係を認めることはできないと言及。キスや、抱き合ったり手をつないだりする行為が肉体関係に準じるとは言えず、こうした行為が長期間続いたものでもないことを踏まえ、「結婚生活の平和の維持を侵害する不法行為とは認めがたい」と結論付けた。(読売新聞オンライン・2026/03/18 19:02)

この判決には、インターネットでも、法律家から批判の声が出ており、私としても、あくまで、記事だけを読んだ感想としては、控訴されれば、覆される可能性もあると感じました。
しかし、重要なのは、本判決自体の妥当性ではありません。同じ証拠でも、法律家(裁判官)によって、事実認定は左右されうるし、それは、素人の人が思っているより、はるかに幅が広いということです。
弁護士は、依頼者に対し、裁判官によって事実認定が異なることがあるという程度の説明はします。そして、依頼者も、裁判官によって事実認定が異なる可能性があるということに、一見、納得している態度で訴訟に臨みます。しかし、裁判官によって異なると言っても、どのくらい異なり得るかという感覚は、弁護士と依頼者とで、相当ズレていると思います。
依頼者は、右が左になったり、白が黒になるほど異なるという感覚は、持っていないように思われますが、弁護士は、場合によっては、それもあり得ると考えています。
