ATMの操作を誤り、間違った口座にお金を振り込んでしまったらどうすれば良いでしょうか。 パニックにならずに適切な手順を踏むことで、返金してもらえる可能性を高めることができます。本記事では、誤振込が発生した際の初動対応から、相手と連絡が取れない場合の法的対処法までを分かりやすく解説します。
【まず確認】誤振込に気づいた直後の初動2ステップ
- 直ちに振込元の銀行へ連絡し、「組戻し」を申請する
- 相手から返金を拒否された・連絡がつかない場合は、弁護士へ相談する
1. まずは銀行へ相談:「組戻し(くみもどし)」の手続き
誤振込に気づいたら、何よりも早く振込元の銀行窓口やカスタマーセンターに相談してください。相談を受けた銀行は「組戻し」の手続きを試みます。
組戻しとは、誤振込先の金融機関を通じて口座名義人に連絡を取り、振り込まれたお金を返金してもらう手続きです。ただし、返金には口座名義人の承諾が必要であり、承諾が得られない場合には返金されません。
誤振込先の口座名義人が良識ある人であれば、通常は組戻しに応答し、返金に応じてもらえます。 しかし、名義人と連絡が取れないケースも少なくありません。たとえば、名義人が死亡していたり、引っ越しや電話番号変更の届け出がなされていなかったりする場合です。口座自体が長年放置されていると、名義人自身が残高の増加に気づかないこともあります。
法律事務所に誤振込の相談に来られる方の多くは、このように「名義人と連絡がつかず、組戻しができない」というパターンです。
2. 名義人の所在を調査する:弁護士会照会の活用
誤振込先の「口座名義・口座種類・口座番号」が判明していれば、弁護士に依頼することで「弁護士会照会(弁護士法第23条の2に基づく照会手続き)」を利用できます。銀行に対し照会をかけることで、誤振込であることが確認されれば、多くの銀行は口座名義人の登録住所を回答してくれます。ただし、回答を得るまでに2週間~1か月程度を要する場合があります。
もっとも、銀行登録住所が判明したとしても、銀行自体が連絡を取れなかったわけですから、その住所にはすでに居住していない可能性が高いと言えます。そのため、判明した住所を足がかりに住民票や戸籍の附票を追跡し、現住所を特定していくことになります。遠方の場合は郵送で取り寄せとなるため、速達を使っても3日~4日ほどかかります。何度も転居を繰り返していたり戸籍が変わっていたりする場合は、さらに取り寄せの手間と時間を要します。
誤振込先の口座が法人名義である場合には、登記から法人を特定できる可能性があります。同名の法人が複数あれば、特定できないこともありますが、まずは登記を検索してみるべきでしょう。
法人名義であるにも関わらず、銀行が連絡を取れない場合、法人が消滅しているにも関わらず口座だけ残っているとか、法人が活動を停止しており、口座が使われていない可能性があります。その場合、登記上の本店所在地などに連絡しても、連絡が取れない可能性が高いので、代表者だった人に連絡を取るしかありません。登記から、代表者の住所が判明すれば、やはり住民票を追跡することになります。
3. 仮差押えをするかの判断
2022年に山口県阿武町で発生した、新型コロナウイルス対策関連の給付金4630万円の誤振込・全額出金事件では、「なぜ早期に仮差押えをしなかったのか」が大きな話題となりました。確かに4630万円もの巨額であれば、資産の全額浪費や隠匿を防ぐために一刻も早く仮差押えをするという判断も必要だったかもしれません。
しかし、裁判所に仮差押えを申し立てるには、相当額の担保金(保証金)の積立てが必要となります。誤振込の金額がそこまで高額でない場合、手続きの手間や高額な費用負担を考慮すると、現実的とは言えないケースも多くあります。
また、連絡不通のため「組戻し」ができなかったことで、相談にこれらた方の場合、相手方に誤振込の事実を伝えて返金してもらうことを考えていたわけですから、現住所が判明した段階でまずは直接連絡・通知を行い、任意の返金を求めるのが一般的な流れです。
他方、誤振込先の銀行が口座名義人と連絡がついたのに、組戻しを拒否された場合には、返金意思がないことが推測されますから、仮差押えをするのが適切でしょう。
ATMで誤振込をしてしまった場合、手元にある情報は金融機関名や口座番号、カタカナの口座名義のみで、相手の住所や正確な氏名は不明であるのが一般的です。相手がどこの誰かが分からない状況では、手続き上の対象者を特定できないため、基本的に仮差押えを行うことはできません。
では、弁護士会照会などで相手の氏名や住所が判明したら、直接連絡を入れる前にまず仮差押えをするべきでしょうか。
相手によるお金の引き出しや口座の解約を防ぎ、回収をより確実にするという意味では、事前に仮差押えをするのも一つの有効な手段です。
しかし、誤振込の対応を相談される方の多くは、まずは相手に誤振込の事実を伝え、任意での返金を求めたいと考えます。もともとは、組戻しにより、相手方と連絡を取ろうと考えていた方だからです。そのため、最初から仮差押えという大がかりな法的手段をとることに抵抗を感じるケースは珍しくありません。また、仮差押えを実行するには裁判所に担保金(保証金)を納める必要があり、費用や手間がかかる点もハードルとなります。さらに、「自分側のミスで誤振込をしたのに、いきなり相手の口座を差し押さえるのは不適切ではないか」という心理的な躊躇が生じるのも自然なことです。
4. 口座名義人が死亡していた場合
誤振込先の口座名義人が死亡しており口座が放置されている場合、その名義人の相続人全員を特定しなければなりません。
口座名義人の戸籍を遡ることで相続人の特定自体は可能ですが、どうしても相応の時間がかかります。さらに相続人全員が特定できたら、各相続人の現住所を調査して連絡を取る必要があります(なお、親族間の交流がある場合には、お一人に連絡がついた段階で他の相続人へ連絡を取り持ってもらえることもあります)。
5. 現住所が判明しても返金に応じない場合(法的措置)
名義人の現住所が特定できたものの、任意の返金に応じない、または無視される場合は、法的な回収手続きを進めます。この場合、返金を拒否する意思が明白なわけですから、仮差押えをしておくべきです。
法律上、誤って振り込まれたお金を受け取る権利は相手にはありません(民法上の「不当利得」に該当します)。そのため、弁護士を通じて「不当利得返還請求訴訟」の提起や「支払督促」といった裁判手続きを行うことで、強制執行を見据えた法的な回収を図ることになります。
6. お金を勝手に引き出されてしまったら(刑事上の問題と警察対応)
誤振込であることを知りながら預金を引き出したり送金したりした場合、以下の通り重い刑事罰の対象となります。
- 窓口で引き出したり、他の口座へ送金した場合:詐欺罪(刑法246条)
- ATMで現金を引き出した場合:窃盗罪(刑法235条)
- ATMで他の口座へ振替送金した場合:電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
お金が引き出されてしまった場合は警察への相談も検討することになります。
⚠️ 注意点:警察での不受理リスクと「被害者は銀行」の意味
法律上、誤振込の預金を無断で引き出す行為における直接の被害者は、振込人ではなく「欺かれて払い戻しに応じた銀行」と解釈されます。そのため、振り込んだ当事者自身は刑法上の被害者となれず、警察に相談しても「当事者間の民事不当利得の問題」と判断されて被害届が受理されないケースが少なくありません。
山口県阿武町の誤振込事件で警察が早期に動いたのは、金額が巨額であったことに加え、行政からの指摘によって「誤振込であることの認識(故意・悪意)」が客観的に証明されており、全額を決済代行業者経由で送金したという明確な証拠(電子計算機使用詐欺の疑い)が存在したからです。
しかし、一般市民間の誤振込では、「そもそも本当に誤振込なのか(既存の債務弁済ではないのか)」が第三者である警察からは一目では分かりません。また、日常的に利用している口座の場合、受取人が「誤振込だと知りながら引き出したのか(故意)」、「自分の預金だと思って引き出したのか」という主観的な要件の立証も難しくなります。
このように警察による刑事対応にはハードルが高いため、警察への相談と並行して、弁護士を通じた不当利得返還請求訴訟などの民事上の回収手続きを着実に進めることが極めて重要となります。
まとめ
誤振込をしてしまった場合は、「1. 迅速な組戻し申請」が最大の初動対応です。 組戻しで解決しなかった場合でも、あきらめずに弁護士へ相談することで「弁護士会照会での住所特定」「不当利得返還請求訴訟」などの法的手続きを通じて回収を目指すことが可能です。不安な場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
