自由財産からの財団組入れとは
自己破産では、ギャンブルや浪費などが「免責不許可事由」とされています。
しかし、免責不許可事由があっても免責を認める「裁量免責」という制度があり、近年の免責不許可率は0.2%~0.6%程度で、ほとんどの人は、免責不許可事由があっても、裁量免責を得られています。
ただし、裁量免責を受けるためには、裁判所が選任した破産管財人による免責調査が行われるのが一般的です。免責しても良いか否かを破産管財人に調査させるわけです。近年は東京を中心に「自己破産の原則的な手続は管財事件である」という考えの下、破産管財人の選任率は上がっているようです。
近年の傾向として、破産管財人は最終的に裁量免責の意見を出すことが大半であり、破産者としては、過度に心配する必要がないことに違いはありませんが、破産管財人によって判断の仕方には一定の差異があります。
そして、管財人によっては、配当を実施するために、自由財産からの組入れを示唆するケースがあります。
自由財産とは、99万円以下の現金(法定自由財産)や破産手続開始決定後に得た財産(新得財産)などが該当し、破産財団に属さないため、本来は債権者への配当に回されることはありません。しかし、破産者の自由意思によって一定額を破産財団に組み入れ、少額でも債権者への配当を実施することによって、裁量免責の根拠とするわけです。言ってみれば、「少しでも返済の努力をしたのだから、それを考慮して免責しましょう」というアプローチです。
管財人による差の実例
同年度に申し立てた、ギャンブルによる自己破産事例を2件紹介します。
- 男性Aの場合
-
属性:月収約23万円の正社員男性(独身)。
状況:債務総額約750万円で、ほぼ全額がパチンコ、競馬、競輪等のギャンブルによるもの。正確な支出額は不明なものの、口座履歴や本人の記憶では支出総額1800万円程度。ギャンブル開始から破綻までの期間は約10年。
- 管財人の判断
-
債務のほぼ全額がギャンブルであることから財団組入れを打診され、約4ヶ月かけて40万円を組み入れました。
その結果、破産財団は予納金20万円と合わせ、合計60万円となりました。
そこから、管財人報酬35万円、官報公告費約5000円、事務費用約1万5000円を差し引き、残りの約23万円が配当に回されました。
その時点での債務総額は、遅延損害金で約800万円になっていました。約145万円の債権を持つある債権者への配当額は約4万円でした。
これにより、男性Aは無事に裁量免責を得ることができました。
- 男性Bの場合
-
属性:月収約50万円~70万円の正社員男性(独身)。
状況:債務総額約1600万円で、少なくとも約700万円を外国のカジノで費消。その他、約700万円の高級腕時計や約700万円の高級車などに浪費。浪費開始から破綻に至るまでの期間は約6年。
一定の収入があり浪費も派手なことから、当初は個人再生(※個人再生には免責不許可事由がないため)で、債務を300万円に圧縮し、8万4000円ほどを3年間返済する計画を検討しました。しかし、過半数の債権を有する債権者が書面決議で反対する意向であることが発覚し(※個人再生は過半数の債権を有する債権者が反対すると認可されない)、やむを得ず自己破産へ切り替えました。
- 管財人の判断
-
特に、財団組入れを求めることなく、「反省している」「すでにギャンブルをやめている」「債権者から免責に反対する意見が出ていない」「管財人の調査に誠実に協力した」などを理由に、配当を実施することなく裁量免責となりました。
なお、勤務先に給与天引きで積立てられていた旅行積立金などがあったため、形成された財団は約30万円であり、それらは、破産管財人の報酬となりました。
感想
男性Bは、わざわざ海外に繰り出してカジノで賭け事をしたり、700万円の時計を買ったりと、浪費の規模としては、男性Aより派手に見えます。浪費開始から破綻に至る期間も男性Aより短く、債務総額も2倍以上であるため、それだけ短期間で派手に使ったと言えます。手取り月収が概ね50万円を超えており、当初は個人再生で300万円を返済する予定だったことから、本人の意思としても、管財人が望むなら、毎月の給料から一定額を組み入れて、配当を実施することは可能だったと思います。私としても、「100万円くらい積み立てるように言われるかもしれない」と説明をしていました。
ところが、蓋を開けてみると、あっさりと裁量免責となりました。
他方、男性Aは、財団組入れを打診されることを想定していませんでした。基本的に、私は、全ての依頼者に対し、財団組入れを求められる可能性を説明していますが、このケースで求められるとは、私自身も想定していなかったのです。あくまで体感ですが、ギャンブルによる破産で、負債総額800万円程度の場合、財団組入れを示唆されることは少ないように思われます。配当が実施できなかったとしても、そのまま裁量免責になることの方が多いのではないでしょうか。
このように、破産管財人が免責について意見を述べる制度である以上、管財人ごとの個性が出ることは避けられません。破産管財人は、裁判所に随時相談しながら業務を進めていますが、すべて裁判所から細かく指導されているわけではなく、とりわけ、免責の判断については、管財人の裁量に委ねられている面が強いと言えます。
したがって、破産事件をご依頼いただく際は、「究極的には、管財人の判断であり、完全な予測は困難」というところをご理解いただく必要があります。
少額管財の最低予納金は20万円ですが、「破産財団が増殖すると管財人報酬が増えるので、報酬を増やす目的で財団組入れを求める管財人がいるのではないか」と考える人がいます。しかし、そのようなことはまずあり得ないと考えています。
配当を実施するためには、債権調査期日を設けて配当手続を行う必要があり、それだけで数か月を要します。管財人報酬が増えるといっても、新得財産からの組入れ程度では、せいぜい+10万~20万円程度です。
管財人としては、わずかな報酬増のために手間を増やすより、早々に破産手続を終わらせたほうが業務効率が良いので、報酬目当ての組入れ要求は考えにくいのが現実です。
財団組入れは拒否できるのか?
破産管財人から求められても、財団組入れは拒否できます。99万円までの現金は法定自由財産、破産手続開始決定後の収入などは新得財産であり、これらには、管財人は手出しできません。これは、法律の定めるルールですから、財団組入れは、あくまで任意です。
しかし、破産管財人から財団組入れを示唆されたら、基本的には、応じる方が望ましいと言えます。
- 男性Cの場合
-
他の法律事務所で自己破産申立てをしたところ、免責不許可となった男性。不服申立て(即時抗告)も棄却されていました。
債務総額は約800万円。ギャンブルへの支出は、勝った分の払戻金を控除しても、1500万円程度です。
ただし、問題点として、ギャンブルによる破産であるにも関わらず、申立書の記載は「免責不許可事由なし」になっており、ギャンブルに使用していた銀行口座を添付していなかったという事情が指摘されていました。
- 管財人の判断
-
近年の裁判所・管財人の判断傾向として、過去の浪費、ギャンブルなどの免責不許可事由そのものが免責不許可の原因になることはありません。それよりも、資産を隠したとか、嘘をついたとか、管財人の調査に協力しなかったなど、破産手続上のルールを破る行為があると、免責不許可となり得ます。
男性Cも、ギャンブルの事実を申告せず、口座を隠匿したことが問題視され、破産管財人から免責不許可の意向が示されました。
ところが、管財人と弁護士の過去のメールを確認すると、管財人は、「相当額の財団組入れを考えているか?」と問い合わせていたのです。
これに対して、弁護士は、財団組入れを拒否していました。男性Cの話では、「入れても無駄だから。」「取られるだけだから。」と言われたそうです。
その結果、破産管財人から免責不相当の意見が出され、免責不許可になってしまいました。免責不許可決定には、「配当を実施するに至らなかった」という点も指摘されていました。
確かに、自由財産から破産財団に組み入れる義務はありません。しかも、免責不許可を示唆されている状況では、財団組入れしても、免責不許可になるリスクが残ります。破産管財人としても、「財団組入れすれば必ず免責意見を書く」という事前約束はできないため、「財団に組み入れて、配当を実現する努力をすれば、免責の意見を書くときに考慮する。」という言い方しかできないわけです。
しかし、自由財産から財団に組入れをすれば、その一部は破産管財人の報酬になるわけです。自分から、「財団に組み入れる意思はないか?」と聞いておいて、いざ、組入れが実現したら、そこから報酬を抜いておいて、免責不許可意見を書くでしょうか?
しかし、管財人が自ら「財団に組み入れる意思はないか?」と尋ねてきたのは、裁量免責を出すための「助け舟」であった可能性が極めて高いと思います。十中八九、事前に、裁判所に相談した上で、配当が実現すれば免責意見を出す心づもりだったと推測されます。依頼者には、財団組入れをするだけの十分な収入もあったので、なぜ拒否したのか、理解に苦しみます。
ほとんどの破産管財人は、中立公平な立場を取りつつも、「せっかく破産申立てをしたのだから、免責された方が良い。」という基本スタンスは持っています。本件は、破産管財人から財団組入れを示唆されたら、原則として応じたほうが良いことを示す典型例です。
男性Cのケースですが、ギャンブルへ支出した事実や口座の存在が、「申立時に隠匿されていた」という指摘の下で、免責不許可となっています。しかし、過去のメールを確認すると、ギャンブルの事実も口座の存在も、申立前に弁護士へ明確に申告されていました。なぜ弁護士が、それらを記載せずに申し立てたのか不明です。
弁護士は、申立後も「どういう趣旨で組み入れるのか?」などと管財人に繰り返し説明を求め、最終的には組入れをしない判断をしており、対応を完全に誤っていました。
結局、男性Cは以下の経緯をたどることになりました。
- R2.3 弁護士に委任
- R2.11 破産申立て
- R3.10 免責不許可決定
- R3.11 即時抗告
- R4.1 即時抗告棄却
- R4.11 小規模個人再生申立て(再生委員選任)
- R5.6 過半数債権者の反対により廃止
- R5.12 再度の破産申立て
- R6.2 破産申立てを取下げ、当事務所に依頼し直し
- R6.6 実際は隠匿の事実がなかった旨を説明を添付して、再度の破産申立て
- R6.7 裁判官との事前協議で、免責の可能性が低いと示唆されたため、取下げ
- R6.9 給与所得者再生申立て(再生委員選任)
- R7.4 認可決定
最初の事務所に依頼した時点から解決まで5年を要し、弁護士費用も二重にかかった上、管財人1人分、再生委員2人分の報酬費用も発生しました。懲戒請求も検討できるレベルの対応でしたが、それを行っても依頼者の直接的な利益にならないため見送りました。
弁護士は依頼者の利益を図るのが仕事ですが、破産申立てにおいて虚偽の主張や隠蔽を行うのは最悪の対応です。
